感度と特異度に関連した計算事例 | 新型コロナの PCR 検査

新型コロナの検査で、感度、特異度、陽性的中率、偽陽性、偽陰性などの言葉を耳にします。これらに関連した計算方法を、図を使って分かりやすく説明しようと思います。
統計の入門者にとって、専門家による記事を読み解くための一助になれば幸いです。

新型コロナの PCR 検査の感度と特異度

ある病気の検査で、陽性ならばその病気にかかっている(感染している)、陰性ならばその病気にかかっていない(感染していない)と判定されます。ただし、この判定と真実との間に、食い違いが生じます。食い違いが少ないほど、精度の高い検査方法です。

検査の精度は、「感度」と「特異度」という2つの指標で表します。
感度は、感染している人を、感染している(陽性)と正しく判定できる割合です。100 人の感染者を検査して、100 人すべてを陽性と判定できれば、その検査方法の感度は 100%です。
特異度は、感染していない人を、感染していない(陰性)と正しく判定できる割合です。100 人の非感染者を検査して、100 人すべてを陰性と判定できれば、特異度は 100%です。

ある検査方法の感度と特異度の両方が高ければ、それは精度の高い検査方法です。一般に、両者はトレードオフの関係があり、感度を高くしようとすると特異度は低下します。

新型コロナの PCR 検査の感度と特異度はどのくらいか、ネット上で多くの情報が得られます。現在、PCR 検査そのものの特性から、感度が 70~90%、特異度は 99%からほぼ 100%だと言われています。
ただし、検体の採取部位・種類、感染・発症からの経過時間、人為的ミスなど、検査結果に影響する多くの要因があります。これらの議論は、他に譲ります。
ここでは、感度が 80%、特異度がほぼ 100%として計算します。この「ほぼ 100%」を、99.00%と 99.99%の2通りに設定します。

また、検査をする集団の感染率(感染者の割合)も、検査結果に影響します。ここでは、感染者割合が 0.1% の集団と、20% の集団の2通りで計算します。

感染者割合 0.1%、特異度 99% の場合

図1に、10 万人を対象に検査を実施した計算結果を示します。この集団の感染者割合を 0.1%、検査の感度を 80%、特異度を 99%とします。

感染者割合が 0.1% なので、感染者は 100 人、非感染者は 99,900 人になります。これは、予想される人数という意味です。以下、同様です。
感度が 80% なので、感染者 100 人の中で、正しく陽性と判定される人は 80 人、誤って陰性と判定される人は 20 人です。前者を真陽性といいます。後者は偽陰性、すなわち「見落とし」になります。
特異度が 99% なので、非感染者 99,900 人の中で、正しく陰性と判定される人は 98,901 人、誤って陽性と判定される人は 999 人です。前者を真陰性といいます。後者は偽陽性、つまり「いらぬ心配」をしなくてはならない人達です。

つまり、陽性と判定された1,079人のうち、真陽性が 80人、偽陽性が 999 人です。陰性と判定された 98,921 人のうち、偽陰性が 20 人、真陰性が 98,901 人になります。
この図1の数値を表1にまとめます。

表1の下の表に、図1の人数を転記しました。
この表を横方向に見てください。感染者 100 人の中で、正しく陽性と判定された人は 80 人、誤って陰性と判定された人は 20 人、つまり感度は 80% です。非感染者 99,900 人の中で、誤って陽性と判定された人は 999 人、正しく陰性と判定された人は 98,901 人、つまり特異度は 99% です。

この表を縦方向に見てください。陽性と判定された人は 1,079 人、この中で感染者は 80人、非感染者は 999 人、したがって陽性的中率は 80/1,079、すなわち 7.41% です。同様に考えて、陰性的中率は 99.98% です。このような場合、縦方向の比率をとるときは慎重な扱いが必要です。感染者割合で、比率が大きく変わるからです。先に進むと、それが理解できます。

この場合、陽性的中率が  7.41% とかなり低くなります。表1の上の表に全体に対する判定結果の割合を示しました。偽陽性と判定される割合は1%ですが、実際の人数は 999 人です。この人達に対する検査後の対応が必要になります。

感染者割合 0.1%、特異度 99.99% の場合

図1の特異度は、「ほぼ 100%」を 99% として計算しました。これを 99.99% にして計算した結果が図2です。感染者割合は 0.1%、感度は 80% で変更していません。

感染者割合が 0.1% なので、感染者は 100 人、非感染者は 99,900 人となり、図1と同じ値です。
異なるのは、非感染者 99,900 人の検査結果です。特異度が 99.99% なので、検査で正しく陰性と判定される人は 99,890 人、誤って陽性と判定される人は 10 人です。偽陽性の人数が顕著に減少しました。

図2の数値を表2にまとめます。表2の見方は表1と同じです。
陽性的中率は 88.90% にまで向上しました。表1の 7.41% とは大きな差です。
検査する集団が大きいので、特異度の「ほぼ 100%」を 99% にするか、 99.99% にするかで、計算結果に大きな差が生じました。

感染者割合 20%、特異度 99% の場合

これまでの計算では、検査対象となる集団の感染者割合を 0.1% に設定しました。ここでは、感染がより進んだ状態、すなわち感染者割合を 20% にします。検査の感度は 80%、特異度は図1の設定に戻して 99% とします。その計算結果が図3、表3です。

図3、表3の見方は、これまでの図表と同じです。感染者割合が高くなり、感染者が 20,000 人、非感染者が 80,000 人に変化したので、検査の判定区分の人数が大幅に変化しました。

特異度を 99% に設定したので、同じ条件の表1と表3を比較してください。
表1では陽性的中率が 7.41% でしたが、表3では 95.24% に向上しています。感度と特異度が同じでも、感染者割合が高いと真陽性の人数が多くなるため、陽性的中率は高くなります。ただし、いらぬ心配をしなくてはならない偽陽性の割合は 0.8%、人数は 800 人で表1と大きな差はありません。

さらに、図3の特異度を 99.99% に変更すると、偽陽性の人は8人、陽性的中率は 99.95% にまで高くなります。

また、感染者割合を 0.1% から 50% まで変化させて、各項目を計算した結果を表4に示しました。感度は 80%、特異度は 99%、被験者は 10 万人です。
特異度が高いため、偽陽性の人数の変化が他の項目よりも小さいことが特徴的です。

おわりに

PCR 検査自体の感度と特異度は共に高く、特に特異度はほぼ 100% であることが特徴です。
ただし、実際の利用場面では、PCR 検査自体以外の要因の影響も大きいようです。上記で設定した数値は、計算方法の仕組みを説明するために、便宜的に設定しました。

図表を作成した Excel ファイルをダウンロードできますので、ご自分で様々な設定にして計算結果を確認することができます。

ところで、血液で癌を判定する腫瘍マーカー検査の場合は、感度と特異度が 80% くらいだそうです。
この検査を、有病率が低い集団、たとえば一般の人間ドック(有病率1%)に適用すると、陽性的中率が低いため、偽陽性の人が多数出ます。この人達には、さらなる精密検査など、必要のない労力・費用が発生します。腫瘍マーカー検査は、癌の疑いがある患者や、癌の再発の可能性がある患者などの定期検査に用いると、意義のある結果が得られると報じられています(毎日新聞、2018年5月6日 東京朝刊)。

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第1部 第3章「2組のデータの解析」7節「ノンパラメトリック検定」に、「感度」「特異度」の説明があります。上記の腫瘍マーカー検査の計算事例の解説も含まれていますので、参考にしてください。
(2022年2月27日)